マダム・フローレンス!夢見るふたり |
フローレンス・フォスター・ジェンキンスは実在した人物。
歌唱力がかなり欠落しており、いわゆる音痴。
見た目も秀でて美しくなかった彼女がなぜ、
音楽の殿堂ともいわれるカーネーギーホールで
人気を得ることができたのか。
フローレンスは1868年、
ペンシルヴァニアの裕福な家庭に生まれます。
7歳で音楽の才能が開花し、
ホワイトハウスに呼ばれてコンサートも行うのです。
17歳で年上医師と結婚。
夫から梅毒をうつされ、治療の副作用で音感を失い、
演奏に支障が出るようになります。
離婚後、シンクレア・ベイフィールドと恋に堕ち再婚。
彼女の父は死去し、莫大な資産を相続します。
NY社交界に進出、
NY音楽界に巨額の財産を投じるパトロンとなって
「マダム・フローレンス」と呼ばれるようになるのです。
身体が衰弱していっても最後まで音楽を愛し、歌い続けた歌姫。
本作はそんなマダム・フローレンスの半生を描いています。
本当は歌が上手いとされているメリル・ストリープ。
この役を演じる為に敢えて音を外す練習を積んだのだとか。
なんだか変な癖がついてしまいそうですよね(笑)
でもその甲斐あってかもうこの音痴の演技がすこぶる面白い。
彼女は大のオペラファンで、
音楽が自分の中心にあると感じているんです。
けれど、歌おうとしても、まったくもって歌にならない。
酷過ぎる音痴なのです…残念ながら。
でも彼女の周囲の人々が、誰もそれを教えてあげる事はなく、
逆に彼女を持ち上げていきます。
将に裸の王様状態です。
彼女は幻想を抱いているが、非常に優しく愛情深い女性で、
富によっても堕落させられておらず、
音楽を真に賞賛する心の持ち主だからこそ
周りはそれを受け入れているのです。
それに、彼女は前の夫からうつされた梅毒のために、
もうすぐこの世を去ろうとしています。
財産目当てで結婚したのは明らかなのですが
そんな彼ですら、フローレンスの生まれつきの善良さを
理解しているように感じます。
気障な二枚目役に定評のある俳優さんなので
今回の人間味のあるいい演技にかなり魅了されました。
特に好演するのは専属ピアニスト、
コズメ・マクムーン役のサイモン・ヘルバーク。
オドオドしながらお金の魅力に負けて、
音痴歌姫のサポートに引きずり込まれる様子を
コミカルに演じています。
シンクレアやコズメがお金持ちのフローレンスに対し、
徹底的なヨイショ役を演じているというのが物語の見どころ。
愛されるべきキャラのフローレンス。
シンクレアの彼女への愛、
コズメの忠誠心等、
笑いあり涙ありの美しく楽しく、
大きな「愛」を感じることのできる映画でした。